平均賃金とは、労働基準法第12条に定められた、特定の従業員に支払われていた「1日当たりの賃金」のことです。労働基準法では「休業手当」や「解雇予告手当」など、会社に支払いを義務づけた手当があります。こうした手当の算定には、平均賃金が用いられます。
平均賃金の計算方法
平均賃金は、原則として直近3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数(暦日数)で除して計算します。
【原則の計算式】
算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額/3ヶ月間の総日数
しかし、原則の式で計算すると、労働日数の少ないパート従業員などは、平均賃金が不当に低い額になってしまいます。そのため日給者や時給者などについては、次の「最低保証額」の計算をします。そして原則の計算方法と比較し、有利な方を平均賃金とします。
【最低保障額の計算式(日給者、時給者など)】
算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額/3ヶ月間の労働日数×60/100
※算定事由発生日とは:
休業手当…休業した日(2日以上の場合は最初の日)
解雇予告手当…従業員に解雇を通告した日
災害補償…労災事故が発生した日、または業務上疾病が確定した日
なお、賃金締切日がある場合は、直近の賃金締切日から3ヶ月をカウントします。
20日締め・当月25日支払いの従業員に対し、5月10日に解雇通告をした場合、平均賃金の計算に用いる期間は、「3月21~4月20日」「2月21日~3月20日」「1月21~2月20日」です。
平均賃金の計算例
以下の例により、平均賃金の計算をしてみましょう。
算定事由:6月15日~6月17日の3日間、会社都合休業をさせた
対象者:10日締め・当月25日支払いのパート従業員(時給者)
直近3ヶ月の賃金:下表のとおり
期間 | 支払われた賃金 | 総日数 | 労働日数 |
5/11~6/10 | 163,400円 | 31日 | 19日 |
4/11~5/10 | 141,500円 | 30日 | 16日 |
3/11~4/10 | 147,825円 | 31日 | 17日 |
計 | 452,725円 | 92日 | 52日 |
まず、原則の計算をします。
原則:452,725円/92日=4,920.92円 ※小数点3位以下を切り捨て
次に、最低保証額を算出します。
最低保障:452,725円/52日×0.6=5223.75円 ※小数点3位以下を切り捨て
最低保障額の方が原則の額より高いため、平均賃金は、5223.75円になります。
平均賃金の計算に含まれる手当・含まれない手当
「直近3ヶ月の賃金」には、基本給のほか、残業手当や通勤手当、皆勤手当など各種手当を含みます。
ただし、賞与など、3ヶ月を超える期間ごとに支払われるものは、平均賃金の計算に使いません。また、傷病見舞金や退職手当なども除外します。
なお、通勤定期代を3ヶ月に一度支給しているような場合は、1ヶ月分換算を平均賃金計算に使います。
「平均賃金が少ないのでは?」と訊かれたら
月給者の場合は特に、自分の平均賃金を見て「私の平均賃金は、こんなに少額なんですか?」と驚く人がいるかもしれません。
平均賃金が少額に見える理由は、分母に(所定労働日数ではなく)「総日数」が使われるためです。従業員に質問されたときは、「公休日にも賃金が割り振られた”1日分の額”ですよ」と回答すれば、納得してくれると思います。
平均賃金は、会社都合休業をしたときの「休業手当」や即時解雇をするときの「解雇予告手当」などの計算に使います。こうした手当は、従業員の生活保障の性質があるため、その従業員が実際に受けていた1日当たりの賃金(平均賃金の額)を把握する必要があるのです。
そうした意味で、平均賃金の計算は重要です。もし平均賃金や手当の計算を誤れば、遡及して差額を支払う必要があるばかりか、従業員の信頼を損なうリスクもあります。必ず正確に計算しましょう。