外国人の厚生年金脱退一時金|基礎知識

「脱退一時金」とは、日本に居住していた外国人が帰国した場合に支給される一時金です。
日本での居住期間が短い外国人は、法律とおりに年金保険料を納めていても将来の老齢年金の受給資格に結びつかないことがあります。

こうした状況から、日本で納めた国民年金保険料や厚生年金保険料の一部を返金する性質をもつ「脱退一時金」の制度があります。この記事では厚生年金脱退一時金について、概要を紹介します。

脱退一時金の対象になる人

次の全てに当てはまる人は、厚生年金脱退一時金を請求できます。

 ・日本国籍ではない
 ・日本の年金制度の被保険者ではない
 ・年金保険料の納付済期間が6月以上
 ・日本を出国後である(日本に住所がない)
 ・年金加入期間が10年未満
 ・障害年金や障害手当金の受給権を持ったことがない
 ・日本を出国してから2年経っていない

つまり、6ヶ月以上10年未満の期間、日本で会社勤めをしていた外国人は、帰国後に脱退一時金を請求することができます。

脱退一時金の額

脱退一時金の額は、日本の年金制度の加入期間と受けていた給与等の額によって決まります。納付していた(=給与から天引きされていた)厚生年金保険料相当額(またはその一部)が戻ってくるため、人によっては高額になることがあります。

厚生年金脱退一時金の額は、次のように計算されます。

 被保険者期間の平均標準報酬額 × 支給率

「平均標準報酬額」は、日本で受けた給与や賞与を元に計算されます。
「支給率」は、厚生年金の被保険者月数に応じて決められています(上限は60月)
日本で働いた会社を退職した月の前月が2024年4月以降の場合の支給率は下表のとおりです。

被保険者月数支給率
6月以上12月未満0.5
12月以上18月未満1.1
18月以上24月未満1.6
24月以上30月未満2.2
30月以上36月未満2.7
36月以上42月未満3.3
42月以上48月未満3.8
48月以上54月未満4.4
54月以上60月未満4.9
60月以上5.5

出典:日本年金機構 「脱退一時金の制度」より


脱退一時金の額を計算してみましょう。
事例:
・厚生年金加入期間 4年間(48ヶ月)
・平均標準報酬額 500,000円

500,000円×4.4(「48ヶ月」に対応する支給率)=2,200,000円
このケースでは、脱退一時金は2,200,000円です。
なお、厚生年金脱退一時金は、振り込まれるときに20.42%の所得税と復興特別所得税が源泉控除されます。

請求の流れと時効|脱退一時金

脱退一時金の請求の流れを紹介します。

1 脱退一時金請求書をダウンロードする。
日本年金機構のサイトから、各国語で書かれた脱退一時金請求書がダウンロードできます。
また、請求用紙は、年金事務所や街角の年金相談センターでも入手できます。

2 添付書類を用意する
・パスポートのコピー
・日本に住所がないことを確認できる書類
(住民票の除票のコピー、パスポートの出国日が確認できる箇所のコピーなど)
・振込先の金融機関の口座番号や名義がわかるもの(通帳やキャッシュカードのコピー)
・年金手帳または基礎年金番号がわかるもの
・委任状(代理人が請求する場合)

3 書類一式を日本年金機構に提出
郵送の他、電子申請も可能です。

なお、脱退一時金の振込時に源泉徴収された所得税等は、後で申告することで還付が可能です。
還付を希望する場合は、出国前に納税管理人を選任し「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を日本での最後の住所地を管轄する税務署に提出しておきましょう。届書のフォームは国税庁のサイトからダウンロードできます。

脱退一時金が請求できるのは、帰国から2年間です。
この期間を過ぎてしまうと、時効により請求できなくなります。

請求の前に|脱退一時金のメリットとデメリット

脱退一時金を受給すると、日本で加入していた年金期間が「なかったこと」になってしまいます。

一度は帰国しても、また日本に来て働くことがあるかもしれません。年金加入期間はブランクがあっても通算されます。そして通算した加入期間が10年以上になれば、日本の老齢年金が受給できるようになるのです。

また「社会保障協定」により、別の国で加入した年金加入期間を、自分の国の加入期間に通算することができます。年金を受けるためには一定の加入期間が必要ですが、両国の加入期間を通算することで、母国の年金の受給資格を満たしやすくなります。

2025年10月現在、社会保障協定の加盟国は23ヶ国で、今後も増加する見込みがあります。各国との詳しい協定内容については、日本年金機構のサイト「社会保障協定」をご覧ください。

他方、脱退一時金にもメリットがあります。
老齢期の終身年金は貴重ですが、若いうちに多額の一時金を受給することで「勉強する」「起業する」「借財を早めに返済する」など、人生をより豊かにする使い道があるかもしれません。

脱退一時金を請求する前には、メリット・デメリットをよく考え、総合的に判断することが大切です。

当事務所では、脱退一時金の請求代行をしております。
お問合せ・ご相談は、こちらのフォームからご連絡ください。
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参考資料:
日本年金機構 脱退一時金の制度
日本年金機構 社会保障協定
国税庁 所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続
厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
厚生労働省 脱退一時金について